経営者の離婚問題
夫婦の一方または双方が会社経営者の場合の離婚は、通常とは異なる特有の問題が生じることがあります。
会社経営者は、高額所得者である場合も多く、保有する財産も高額かつ広範囲にわたるため、財産分与や養育費・婚姻費用などの金銭面が問題になることが多いです。また、配偶者が当該会社の役員や従業員であるような場合には、経営状況や雇用関係の問題が生じるケースもあります。
目次
1 経営者の財産分与
夫婦の一方または双方が会社経営者の場合、その保有する財産が高額かつ広範囲に及ぶことが多いため、財産分与の対象財産を適切に確定し、評価する必要があります。
(1)財産分与の対象財産・範囲
① 動産等
会社経営者は、婚姻中に、高額な自動車や家具、時計、宝石等の貴金属、美術品、ゴルフ会員権などを取得し保有している可能性があります。これらの動産等も、特有財産でない限り、財産分与の対象になりますので、時価額を適切に評価する必要があります。
② 退職金
離婚時に退職金を受給していなくても、将来支給される蓋然性が高いと認められる場合には、財産分与の対象となり得ます。
会社経営者の場合、株主総会決議や退職慰労金規程等に基づき、退職金の支給を受けることがあります。この場合、将来の退職金支給に備え、節税対策も兼ねて、会社を契約者、経営者(役員)を被保険者とする保険(長期平準定期保険、逓増定期保険等)を掛けていたり、小規模企業共済に加入している場合があります。
そこで、このような場合には、将来支給される退職金も財産分与の対象になる可能性があります。
③ 法人名義の財産
夫婦の一方または双方が法人を経営している場合、法人(会社)名義の財産が、離婚の際の財産分与の対象になるかが問題になります。
この点、法人と経営者個人は、あくまで別個の法人格の主体であることから、法人名義の財産は、原則として、財産分与の対象にならないというのが実務の考え方です。
ただし、同族会社や家族経営的な形態で、その実質が個人事業と異ならないような場合には、例外的に、法人名義の財産も財産分与の対象として考慮されることがあります。
④ 自社株
財産分与の対象には、婚姻中に取得した株式も含まれますが、会社経営者の場合、自ら経営する会社の株式(自社株)を保有していることが多く、当該自社株も、夫婦で協力して築いた財産であると認められれば、財産分与の対象となります。
夫婦で協力して築いた財産といえるか否かは、株式の取得時期、取得の経緯、保有割合、会社経営に対する貢献度等に基づいて判断されます。
そこで、法人名義の財産自体は財産分与の対象にならない場合でも、結局は、自社株の評価を通じて、会社の財産も財産分与の対象となるケースが比較的多いです。
ここで問題となるのが、株式の評価です。
上場会社の株式であれば、取引相場をもとに株式の財産価値を評価することが容易ですが、中小企業のような非上場会社の株式の場合は、取引相場がなく、株式の財産価値を評価する客観的な数値がありません。
そのため、財産価値があるか否か、また仮に財産価値があるとしても、どのような評価方法を用いて算定すべきかについて、当事者間で争いになることが少なくありません。
自社株自体を分与することも選択肢の一つではありますが、財産分与により、経営者の保有株式の割合が減少すれば、会社経営に重大な影響を及ぼすおそれがあります。そこで、分与の方法については、経営者から相手配偶者に対して、他の分与対象財産を分与したり、代償金を支払うなどの調整が必要となります。
(2)財産分与の割合
財産分与は、原則として、2分の1ずつの割合で分与し合います(2分の1ルール)。共働き夫婦の場合に限らず、夫婦の一方が専業主婦(夫)の場合でも、通常、夫婦の財産形成に対する貢献度は等しいとの考えから、この2分の1ルールが適用されます。
もっとも、夫婦間で財産形成に対する貢献度に差がある等の特段の事情がある場合には、この2分の1の割合が修正されることがあります。
そこで、経営者本人の能力や経営手腕等により、通常予想されるよりも多額の財産を形成したといえるような場合には、経営者本人の貢献度がより高いと評価され、2分の1ルールの原則が修正される可能性が高いでしょう。
2 養育費・婚姻費用の算定方法
養育費や婚姻費用は、家庭裁判所で使用される「養育費・婚姻費用算定表」をもとに決めるのが一般的です。
しかし、算定表で設定されている年収は、給与収入2000万円、自営収入1567万円をそれぞれ上限としており、会社経営者の場合は、これらの金額を上回ることもあります。そのため、養育費や婚姻費用の算定の仕方をめぐって、当事者間で争いが生じる場合も少なくありません。
3 配偶者が役員や従業員になっている場合
夫婦の一方または双方が会社経営者の場合、相手配偶者を役員にしていたり、従業員として雇用している場合も多いと思います。
ここで注意すべきなのが、離婚を理由に退任させたり、解雇することはできないということです。そのため、当事者間で十分な話し合いを行い、配偶者の意向を確認した上で、この問題についても解決しておくことが大切です。
なお、経営者は、配偶者の退任前に役員報酬の支払いを停止したり、退任時に規程があるにも関わらず退職金を支給しなかったりすることはできません。