養育費
目次
1 養育費とは
養育費とは、子どもが社会的・経済的に自立するまでに必要とされる費用をいいます。
養育費は、法律上の扶養義務に基づくものです。そのため、親権の有無にかかわらず、また、同居しているか否かを問わず、親である以上、養育費を負担する義務があります。
養育費には、子どもの衣食住のための費用、医療費、教育費、娯楽費、小遣いなどが含まれます。
2 養育費の決め方・相場
養育費の金額等については、まずは、当事者間の協議・話し合いで決めます。当事者の話し合いによって金額を決める場合は、いくらであっても構いません。
当事者間での話し合いが困難であったり、話がまとまらない場合には、家庭裁判所に調停の申立てをし、調停手続の中で話し合うか、裁判官に審判で決めてもらうことになります。
調停・審判においては、通常、「養育費・婚姻費用算定表(算定表)」をもとに、調停での話し合いが進められたり、裁判官による審判がなされますが、最近では、当事者間の協議・話し合いの際も、この算定表を参考にして養育費の金額を決めることが多いでしょう。
算定表は、裁判所のホームページにも掲載されています。
⇒養育費・婚姻費用算定表(令和元年版)
https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou/index.html
ここで算定表の見方を簡単に説明します。
養育費の算定表は、子どもの人数・年齢に応じて9つの表に分かれていますので、まずは、自分のケースに該当する表を選びます。
算定表では、横軸に権利者(養育費を受け取る側)の年収が、縦軸に義務者(養育費を支払う側)の年収が、それぞれ記載されており、この横軸と縦軸の交差するところが、標準的な養育費の額(相場)となります。
実際の調停・審判においては、「算定表」の金額を参考にしつつ、各家庭の生活状況や当事者の意向などの個別事情も考慮して、具体的な金額を決定します。
3 養育費の始期と終期
(1)始期
いつの時点から養育費を請求できるかについては、通常、権利者が義務者に対して請求した時、具体的には、調停や審判の申立時と考えられています。もっとも、事案によっては、調停や審判を速やかに申し立てることが困難な場合もあるかもしれません。そこで、実際には、個別の事情を考慮して、いつの時点からの養育費請求を認めるのが相当かを判断することになるでしょう。
(2)終期
養育費はいつまで支払うべきかについて、法律に定めはありません。
そのため、当事者間で協議し合意が成立すれば、その時までということになります。
調停や審判、裁判においては、養育費の支払終期について、「満20歳に達する日の属する月まで」と定めることが多いです。最近では、子どもが大学へ進学する場合も多いため、「満22歳に達した後に最初に到来する3月まで」とするケースも多いです。
養育費は、子どもの自立が期待できるまで支払われるべきものですので、子どもの自立が見込まれる時期を考慮し、子どもの成長と自立のために十分な期間を定めるようにしましょう。
4 養育費の支払方法
(1)毎月払いが原則
養育費は、子を監護教育するのに必要な日々発生する費用であることから、その性質上、定期的に支払われる必要があります。
そのため、養育費の支払方法は、毎月払いが原則とされます。
(2)一括払いの注意点
もっとも、相手方の将来の支払いに不安があるような場合には、できれば一括で支払ってもらいたいというのが率直な思いでしょう。
この点、当事者間の協議により、養育費一括払いの合意をすることは可能です。
ただし、一括払いの合意に基づき、養育費が一括で支払われた場合であっても、それによって扶養義務を免れるものではありません。
そのため、一括払いで養育費の支払いを受けた側が、養育費以外に費消してしまった等の場合であっても、養育費の性質や重要性から、再度の養育費請求が認められる可能性があります。
また、養育費は、「通常必要と認められるもの」については、贈与税の課税対象にはなりませんが、養育費の一括払いを受けた場合には、贈与税が課される可能性がありますので注意が必要です。
そこで、これらのリスクを避けるため、養育費の一括払いの場合には、信託契約を利用することを検討するとよいでしょう。
5 養育費の増減額
(1)増減額の可否
養育費について一旦取り決めがなされても、当事者間の協議・話し合いにより合意できれば、養育費の増減額は可能です。
また、取り決め後に、取り決めがなされた当時予測できなかった「事情の変更」が生じたときも、増減額請求が認められます(事情変更の原則、民法880条)。
もっとも、事情の変更があったからといって、当然に養育費が増減額されるわけではなく、原則として、増減額についての当事者間の協議、または裁判所による審判がなされない限り、養育費は増減額されないということに注意が必要です。
(2)増減額が認められる「事情の変更」とは
では、どのような「事情の変更」があれば養育費の増減額請求が認められるでしょうか。
養育費は、通常長期間にわたって継続的に支払われるため、どんな事情が生じた場合でも、一切変更が認められないというのではあまりに非現実的ですが、他方で、養育費の重要性や法的安定性の要請との調整も必要となります。
そこで、「事情の変更」は、養育費を取り決めた当時予測できなかったような特別な事情が生じたとき、と一般に考えられています。
当時予測できなかった「事情の変更」としては、次のような場合が考えられます。
①一方または双方の収入の増減、②大きな病気やケガ、③家庭環境の変動(再婚、養子縁組、次子出産など)、④子の進学等に伴う教育費の増減、⑤物価の大幅な変動、貨幣価値の変動などがあります。
ただし、これらの事情があっても、増減額請求が必ず認められるというわけではなく、実際に増減額請求が認められるか否かは、事案に応じて、様々な事情を考慮して判断されます。
なお、変更される場合の養育費の金額は、事情が変更した後の当事者双方の収入・支出状況、その他一切の事情に基づいて算定することになります。
6 支払確保のための手段(養育費・婚姻費用に共通)
調停、審判などで養育費や婚姻費用を支払うことが決まったのに、相手(義務者)が支払わない場合に利用できる手続きとして、履行勧告と強制執行があります。どちらも権利者からの申立てにより裁判所が行う手続きです。
(1)履行勧告
調停や審判で決められたとおりに養育費や婚姻費用が支払われない場合、家庭裁判所が、権利者からの申出を受けて、必要な調査を行った上で、義務者に対して支払を促す制度として、履行勧告があります。
履行勧告は、家庭裁判所の調停・審判等で定められた場合にのみ利用することができます。公正証書など、その他の方法により当事者間で合意したものについては利用できません。
履行勧告の申出は、養育費を定める手続をした家庭裁判所に対して行う必要があります。また、申出は、書面でも、口頭や電話によっても行うことができ、費用は一切かかりません。
ただし、履行勧告には強制力がないため、義務者が勧告に応じない場合に、支払いを強制することはできません。強制的に支払を求める場合には、地方裁判所に対して、強制執行の手続をとる必要があります。
(2)強制執行
強制執行の手続には、直接強制と間接強制とがあります。
① 直接強制
直接強制は、調停・審判などの裁判所の手続や公正証書で決められたとおりに養育費や婚姻費用を支払わない債務者に対し、その保有する財産(給料や預貯金など)を差し押さえて、その財産の中から強制的に支払いを受ける制度です。
自ら支払わない債務者の財産から、強制的に金銭を回収することができるため、非常に強力な手段といえます。
ここで重要なことは、強制執行ができるのは、調停・審判などの裁判所の手続や公正証書によって支払金額や支払時期(支払の始期・終期を含む)が具体的に定められた場合に限られるという点です。
たとえ離婚協議書などの書面を作成していたとしても、単なる当事者間の合意だけでは、強制執行はできません。その場合、強制執行ができるようにするためには、改めて調停・審判などで養育費や婚姻費用等の取り決めをする必要があります。
② 養育費等についての特則(将来分の差押え)
養育費や婚姻費用等については、支払期限が過ぎているのに支払われない未払分があれば、その分だけに限らず、まだ支払期限が到来していない将来分についても一括して差押えをすることができます。
そこで、未払いの養育費や婚姻費用について差押えをする際、あわせて将来分についても差押えの申立てをしておけば、不払いの度に何度も差押えを行う必要はなく、手続きとしては1回で済むという特徴があります。
なお、将来分について差し押さえることができる財産は、義務者の給料や家賃収入など、義務者が継続的に支払いを受ける金銭に限られ、預貯金の払戻しや退職金の支給など1回で支払いが終了するものは、対象になりません。
また、養育費や婚姻費用等の未払分については、義務者の勤務先等から直接、差押えた範囲内でまとめて受け取ることができますが、将来分については、各支払期限が到来した後に受け取ることになります。
さらに、通常、差押えができる範囲は、原則として4分の1に相当する部分までと定められていますが、養育費や婚姻費用等については、原則として給料などの2分の1に相当する部分までを差し押さえることができます。
養育費や婚姻費用等が支払われない場合、この直接強制の方法により給料等を差し押さえると、勤務先の手前、相手方から、未払分だけでなく将来分の養育費等が一括で支払われたり、支払いが再開されることも多いです。
ただし、給与等の差押えは、勤務先に養育費等の不払いの事実が知られてしまい、相手方の職場での立場に影響することが予想されますので、慎重に行うことが大切です。また、強制執行を行うには手間と費用がかかるため、相手方が確実に財産を保有している場合や、しっかりとした勤務先があり定期的に給料を受領している場合など、強制執行によって、確実に回収が見込まれる場合に行うのが一般的です。
③ 間接強制
間接強制とは、義務者が債務を履行しない場合に、裁判所が、義務者に対し、一定の間接強制金の支払いを命じ、心理的圧迫を加えることにより、その自発的な支払を促すものです。
本来、金銭の支払を目的とする債権については、間接強制を行うことができませんが、養育費や婚姻費用等の扶養に関する権利については、例外的に、間接強制の方法による強制執行が認められています。
もっとも、義務者に支払能力がない場合や養育費等の支払いにより義務者の生活が著しく窮迫する場合には、間接強制が認められないこともあります。
また、間接強制の決定が出されても、義務者が自発的に支払わない場合、養育費や間接強制金の支払いを得るためには、改めて直接強制による強制執行を行う必要があります。そのため、養育費や婚姻費用等を回収する手段として間接強制を選択する場面は、それほど多くありません。
玉藻総合法律事務所では、養育費に関する様々なご相談・ご依頼についても、常時多数お受けしております。
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