親権
目次
1 親権とは
親権とは、未成年の子の利益のために、子を監護・教育し、子の財産を管理することを内容とする、親の権利義務の総称と言われています。
日本では、父母が婚姻中は、原則として父母が共同で親権を行使しますが(共同親権)、離婚した場合は、どちらか一方の単独親権となるため、未成年の子がいる夫婦が離婚するためには、夫婦の一方を親権者として指定する必要があります。なお、子どもが複数いる場合は、それぞれの子について親権者を決める必要があります。
離婚届には、子どもの親権者を父母どちらにするかを必ず記載しなければならず、この記載がなければ、離婚届を提出しても受理されません。そのため、離婚の合意ができていても、親権者の合意ができない場合には、調停、審判、訴訟(裁判)で定めるしかありません。
2 親権の種類
(1)監護権(身上監護権)
監護権とは、子を監護・養育・教育する権利義務の総称をいいます。
具体的には、子の衣食住の世話をし、教育やしつけを行うことです。
民法では、居所指定権、懲戒権、職業許可権が定められています。また、子に関する身分上の行為(養子縁組、相続の承認・放棄など)の代理権も定められています。
(2)財産管理権
子の財産を管理し、その財産に関する法律行為について子の代理人となる権利義務のことです。
財産管理権として、未成年者の契約は親権者が代理人として行えますし、未成年者が単独で行った契約を親権者は取り消すことができます。また、未成年者の財産をどのように未成年者のために使うかについても、親権者に広い裁量が認められています。
3 親権者を決めるまでの流れ
(1)協議・話し合い
離婚にあたっては、必ず親権者を指定する必要があります。
協議離婚では、離婚に際して、どちらが子どもの親権者となるかを、当事者間の協議で決めることができます。
なお、離婚の際は、当事者間の協議で親権者を決めることができますが、離婚後の親権者の変更は、必ず家庭裁判所の調停または審判によって行う必要があります。そのため、親権については、離婚の際に十分に話し合い検討した上で決めることが大切です。
ここで、親権についての話し合いを行う際には、「子どもの心身の健全な成長にとって何が大切か」という観点を決して忘れないようにしましょう。また、お互いに誹謗中傷をしたり、子どもを巻き込むことはしないようにしましょう。
(2)調停⇒訴訟(裁判)
当事者間で協議ができないか、協議がととのわないときは、家庭裁判所に調停を申し立て、調停で話し合いをして決めます。
調停でも親権者が決まらない場合には、離婚訴訟(裁判)の中で裁判所が決めることになります。
裁判所は、親権者の指定の判断をするにあたって、児童心理学などの専門的知識を有する家庭裁判所調査官に対し、親権者の適格性や監護状況、子の意向調査などの調査を命じることができます。
調査官による調査では、実際に家庭訪問を行ったり、子ども本人と面談したり、子どもが通う学校や保育所(園)、幼稚園などを訪問して関係者から話を聞くなどします。調査官による調査結果や意見は、調査報告書にまとめられます。裁判官は、必ずしも調査官の意見に拘束されるわけではありませんが、専門家の判断として尊重されています。
4 親権者を決める際の基準
調停や裁判において、親権者を指定するにあたっては、どちらの親を親権者とするのが「子の利益(福祉)」に適するか、といった観点から判断します。具体的には、次のような基準・事情が考慮されます。
① 監護の継続性(主たる監護者は誰か)
従前の監護状況の実績から、より多く子どもの監護養育に関わってきた親が、親権者として優先されるべきであるという考え方です。
調停や裁判といった実務では、子の出生時から現在までの主たる監護者は誰かという観点が、重要な基準として位置づけられています。
② 現状尊重の原則
変更すべき特段の事情がない限り、既に子を監護養育している親が、引き続き親権者として子を監護養育していくべきであるという考え方です。
子の健全な成長のためには、その心理的・情緒的安定が図ることが重要であるとの理由から、現在の監護状況に問題がないのであれば、現状を尊重し、環境を大きく変えることは避けるべきであると考えられています。
この基準も、監護の継続性と同様、実務において重視されています。
③ 子どもの意思
親権者の指定にあたっては、子が15歳以上のときは、子の陳述を聴取しなければなりませんが、子が15歳未満であっても、概ね10歳以上の子については、意思能力があると認められ、基本的に子の意思が尊重されます。
もっとも、子が幼少の場合は、一方の親(特に監護親)の意向に左右される可能性が高く、発言内容が真意であるとは限らないことや、仮に真意だとしても、その未熟性から、発言内容が変わる可能性が十分に考えられることなどから、一つの判断要素に過ぎないと考えられています。
④ 兄弟不分離の原則
兄弟姉妹は、できる限り同一親によって監護養育されるべきであるという考え方です。特に、幼児期や学童期において兄弟姉妹が一緒に暮らすことは、人格形成上も重要であると考えられています。子の年齢が上がるにつれて、この基準は後退していきます。
⑤ 面会交流に対する寛容性
非監護親と子どもとの面会交流に否定的な親は、親権者としての適格性に疑問があるという考え方です。
虐待などの正当な理由がある場合はもちろん別ですが、当事者間に感情的な争いがあり離婚する場合であっても、子どもにとっては、どちらも親であるので、面会交流は子の健全な成長にとって非常に重要であると考えられています。
そのため、面会交流の重要性について十分に認識・理解した上で、許容・協力する姿勢があるかどうかが、一つの判断要素とされます。
⑥ その他
上記の基準以外に、①監護体制(居住環境、経済状況、監護補助者の有無など)、②子に対する愛情・監護意思、③心身の健全性(年齢、健康状態など)、④子の年齢や心身の状況、⑤母性優先の原則、といった基準・事情が考慮されます。
5 監護権
監護権とは、親権のうち、子を監護・養育・教育する権利義務の総称をいいます。監護権を有する者を、「監護者または監護権者」と呼びます。
民法上は、父母が協議離婚する際に、監護者を定めることができる旨が規定されていますが、実務では、別居中の夫婦(双方ともに共同親権者)が、離婚するまでの間、現実的にどちらが子を監護養育するかという場面においても、監護者を定める手続きが行われることが多いです。
(1)監護者を決める際の基準
別居中の監護者についても、原則として当事者間の協議で決めます。
そのため、別居を行う際や、別居後の話し合いで、別居中の監護者を定めることができます。
当事者間での協議が困難な場合には、家庭裁判所に対して、子の監護者を定める調停または審判を申し立てることになります。
調停では、最終的に当事者が話し合いによって監護者を決めますが、審判では、子どもの年齢や監護状況、その他の一切の事情を考慮して裁判所が決定します。
監護者を指定する際においても、「子の利益(福祉)」の観点から、具体的には親権者の指定と同様の基準により判断されます。
(2)子の監護者指定・子の引渡し
ただし、一方配偶者による子どもの連れ去りなどの事案においては、協議や調停よりも、速やかに子の監護者指定・子の引渡しの審判を申し立てることを検討すべきです。
この場合、調停や協議(話し合い)で話がまとまる可能性は殆どありません。話し合いに相応の時間を費やしている間に、子どもの監護養育の実績という既成事実が積み重ねられ、最終的に子どもを取り戻せなくなってしまうおそれがあります。
これらの手続きには、高度な専門性と迅速な対応が何より不可欠となりますので、 子の監護者指定・子の引渡し事案に精通した弁護士に依頼することをおすすめします。
(3)親権と監護権の分離
① 特徴・メリット
監護権は、本来、親権のうちの一内容ですが、離婚の場合には、親権と監護権とを分離して、別個に定めることも可能です。
親権と監護権を分けることで、柔軟な解決を図ることができるようになります。特に、離婚の際に、双方が子どもの親権をめぐって激しく対立し争っている場合には、親権と監護権を分けることが解決につながる場合もあります
② デメリット・注意点
しかし、法律上の子どもの法定代理人として契約をする人(親権者)と、実際に子どもと生活を共にする人(監護権者)が異なることや、両者の権利範囲が不明確であることから、親権と監護権を分離して離婚した場合には、将来、子どもの進学先や病気の際の治療選択など、様々な場面でトラブルが発生するおそれがあります。
そこで、こうしたトラブルを避けるためには、やはり親権と監護権の安易な分離は避けるべきであると一般的に考えられています。調停や裁判においても、裁判所は、親権者と監護権者を分ける扱いに消極的ですので、両者を分離する解決は、あくまで例外と考えておくべきでしょう。
仮に、離婚する場合に親権者と監護権者とを分ける場合には、離婚後も互いにコミュニケーションを取り合い、情報共有を密に行うことが大切です。