慰謝料
目次
1 離婚の慰謝料とは
慰謝料とは、相手の不貞や暴力行為などの不法行為によって精神的苦痛を被った場合に、加害者に対して請求する損害賠償のことをいいます。
離婚の慰謝料とは、離婚によって被る精神的苦痛に対する損害賠償のことです。
配偶者の不貞や暴力行為は、精神的にも非常に辛く悲しく、心が深く傷つく出来事です。慰謝料とは、こうした精神的苦痛を金銭に換算し、加害者に対して賠償を求めるものです。
なお、配偶者の暴力行為(DV)によって、怪我等をした場合には、財産的損害に対する賠償として、治療費等を賠償請求することができます。
離婚の慰謝料が認められる不法行為の典型例は、不貞行為や身体的暴力ですが、相手が無断で多額の借金をしていた場合や、相手が家庭を顧みず家を出て行き生活費を渡さないような場合(悪意の遺棄)にも、慰謝料が認められる可能性があります。
なお、相手が否定している場合には、証拠が必要になってきます。
慰謝料は、離婚後に請求することも可能ですが、3年で消滅時効にかかるので注意が必要です。
2 慰謝料を請求できる場合
(1)不法行為が成立すること
慰謝料を請求するためには、法律上「不法行為」が成立する必要があります(民法709条)。
どんなに精神的苦痛を感じても、相手の行為が不法行為にあたらなければ、慰謝料請求は認められません。
不貞行為や暴力行為などが、不法行為に基づく損害賠償として、その違法性が認められる典型例です。離婚の原因として、最も多いとされる「単なる性格の不一致や価値観の違い」の場合には、違法性が認められることは少なく、ほとんどの場合、慰謝料は認められません。
<慰謝料が認められる具体例>
① 配偶者の不貞行為(不倫・浮気)
② 暴力や犯罪行為、悪意の遺棄
③ 生活費を渡さない等、配偶者としての義務を全く果たさない場合
④ 性交渉の拒否、性的不能
<慰謝料が認められない具体例>
① 配偶者の行為に違法性がない場合
② 加害行為が証拠上認められない場合
③ 加害行為と婚姻破綻との間に因果関係が認められない場合
④ その他、不法行為の要件をかく場合
(2)不貞行為(不倫・浮気)
不貞行為とは、配偶者ある者が、配偶者以外の者と性的関係(肉体関係・性交渉)を結ぶことをいいます。
キスをしたり、手をつないでデートするというだけでは、不貞行為にはあたりません。ただし、性交渉に至らない場合でも、交際の内容・程度等によっては、不法行為と認められ、慰謝料請求が認められる可能性があります。
なお、不貞相手が、既婚者であることを知っていた場合には、不貞相手に対しても慰謝料を請求することが可能です。
(3)暴力行為(DV・モラハラ)
DV等の身体的暴力だけでなく、精神的な暴力(いわゆるモラハラ)も、不法行為に該当し、慰謝料請求が認められる可能性が高いです。
もっとも、モラハラなどの精神的暴力は、身体的暴力と異なり、目に見えず、証拠の確保が難しいこともあり、慰謝料を真正面から認めた裁判例はそれほど多くありません。
ただし、離婚原因の一つの事情となったり、他の行為と相まって不法行為とされる可能性がありますので、できる限り証拠を確保するように努めましょう。
3 慰謝料の金額・相場
(1)慰謝料の金額・相場
慰謝料は、精神的苦痛に対する損害賠償であり、様々な要素を総合的に考慮して算定されますので、事案ごとに異なります。そのため、一概にいくらという相場が決まっているわけではありませんが、一般に、裁判では、50万~300万円程度が目安と言われています。
一方、示談交渉では、請求する側と請求された側が、交渉の結果、合意した金額となるため、事案によっては、裁判の場合の相場と比べて、高額になることも低額になることもあり得ます。
(2)慰謝料の金額の算定要素
一般に、慰謝料額の算定にあたっては、以下のような要素が考慮されます。
- 離婚原因となった不法行為(不貞や暴力等)の内容・程度・背信性
- 精神的苦痛の程度
- 婚姻生活の実情(婚姻期間、子の有無・年齢、生活状況など)
- 当事者の年齢、社会的地位、支払能力
- 離婚後の生活状況の見通しなど
これらに加え、調停や審判、裁判の場面では、財産分与で支払われる金額や年金分割なども考慮される場合があります。
4 慰謝料請求の流れ・方法
離婚と合わせて慰謝料を請求する場合には、まず当事者間で協議ができるのであれば協議の中で慰謝料を請求します。
当事者間で話合いがつかない、または話合いができないような場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立て、離婚調停の中で、慰謝料を請求していくことになります。
調停でも合意が成立しない場合には、離婚訴訟(裁判)を提起し、裁判の中で主張・立証を行うことになります。裁判では、当事者双方の主張や証拠をもとに、慰謝料請求の可否および金額について、裁判所が判断することになります。
なお、離婚後に慰謝料を請求する場合や、不貞相手に対して慰謝料請求する場合には、地方裁判所に民事訴訟(裁判)を提起することになります。
これらの場合には、まずは内容証明郵便で慰謝料請求の意思表示を行い(示談交渉)、相手が争った場合に訴訟をする、という流れになるケースが多いです。
5 証拠の収集について
(1)なぜ証拠が必要なのか
慰謝料請求するには証拠が必要だという話を聞いたことがあるかもしれません。では、なぜ証拠が必要なのでしょうか。
その理由は、①争いになった場合に裁判で勝つため、②相手との交渉を有利に進めるため、という2つの点にあります。
慰謝料の問題は、当事者間での話合いがつかない場合には、裁判を起こして、裁判所に、相手の慰謝料責任を認めてもらわなければなりません。
そして、裁判では、請求する側に立証責任がありますので、慰謝料を請求する側は、自らが主張する事実を証拠によって証明しなければ、裁判所に請求を認めてもらえません。つまり、裁判に負けてしまいます。
そこで、相手の不法行為を証明するための、裏付けとなる証拠を収集する必要があります。
また、適切な証拠を効果的に使うことができれば、相手との交渉場面においても、交渉を有利に進めることができます。
なお、通常、協議・交渉段階においては、手持ちの証拠を相手に示すことはありません。裁判に至るまでは、手持ち証拠を安易に見せない方が良いでしょう。
具体的に、どのような証拠をどの程度収集すれば十分かを判断するためには、法律的な知識と経験等が必要となりますので、慰謝料請求に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
(2)証拠の具体例
<暴力の場合>
① 暴力を受けた直後に受診した診断書
② 暴力を受けた直後の写真
③ 暴力の内容・経緯等をできるだけ詳細に記した日記やメモ
④ 暴力直後に知人や親に助けを求めたメール、ブログ、SNSなど
⑤ 警察や子ども家庭相談センター等の公的機関への相談履歴
⑥ 暴行行為の状況等の録音・録画
⑦ 配偶者の暴力を認める自白を録音・録画したもの、LINE・メール、誓約書・謝罪文など
<不貞行為の場合>
① 携帯電話やパソコンでのLINEやメール等のやり取り
② 調査会社(興信所・探偵)の調査報告書
③ 携帯電話やパソコンに保存されている写真・動画
④ 携帯電話内臓のGPS、カーナビ、ドライブレコーダーの記録
⑤ 配偶者との会話を録音したもの
⑥ 配偶者の不貞行為を認める自白を録音・録画したもの、LINE・メール、誓約書・謝罪文など
⑦ 日記、手帳、メモ、ブログなど
⑧ クレジットカードの利用明細、レシートなど
6 早期に弁護士に相談するメリット
不貞や暴力行為など、配偶者による不法行為は、何より辛く悲しい出来事です。
これらの出来事が発生した段階で、すぐに弁護士に相談するというのは、とても勇気がいることかもしれません。
ただ、経験豊富な弁護士に、悩みを打ち明け相談するだけでも、心が軽くなり、気持ちも落ち着くことと思います。また、そうして初めて今後の将来について冷静に考えることができるはずです。
どうぞお気軽にご相談ください。
⇒ 不貞の慰謝料請求に関する詳細につきましては、「不貞の慰謝料を請求したい方へ」をご覧ください。